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夜這い

 だいぶ家を留守にしていたら空き巣に入られたらしい。しかし被害にあったのは私だけで、他の住人の持ち物は何も盗まれていなかった。ある意味では当然といえる。ここに住んでいるのは、みな家を失ったか捨てられたかの動物たちばかりだからだ。少々の例外を抜きにして、自分の財産を持っているのは私――古明寺さとり以外に誰もいない。
 書斎に入った瞬間、私は頭を抱えた。人から呆れられるほど神経質な性格の私は、常に部屋が綺麗に整っていないと気がすまない。どこに何があるのかすべて把握している。だから空き巣に入られたのはすぐにわかった。
 とんでもなく部屋が散らかっていたからだ。まず目に入ったのは、仕事用の書籍がみっちりと詰まった本棚だ――綺麗に整頓されていたはずの本たちは無残にも床の上に散乱していた。足の踏み場もないほどだ。部屋に入るためにまず本を元の位置に戻さなければならなかった。
 次に仕事で使うデスクだ。お気に入りの文房具がめちゃめちゃにされていた。こんな非道が許されるのかと叫びたくなるくらいめちゃくちゃにされていた。万年筆が机に突き刺さり、日々の雑事を書き留めるノートにはよくわからない絵や文字みたいな何かがびっしりと書き込まれていた。
 その文字とも呼べなくもないぐちゃぐちゃの筆跡には見覚えがあった。こんなことをしでかすのは広い地底世界でも、一人しか私は知らない。他でもない、私の部屋に空き巣に入ったのは、私のただ一人の妹、古明寺こいしだった。
 ため息をつきながら私はノートをとった。こいしからのメッセージらしきものが、私の目に飛び込んできた。


『今夜、お姉ちゃんに夜這いかけに行くから。楽しみに待っててね☆』


 いったいあの子は何を考えているのか。こいしの奇行は今に始まったことではない。今回のように部屋をめちゃくちゃにされるのだって両手で数えても足りないくらいだ。
 唯一の楽しみとして買い揃えている文具を二度と使えないくらいに破壊され、そのたびに泣きたい気持ちを抑えながら旧地獄街道に遠出して新しい万年筆やノートを買ってくるのだ。けど、妹を恨む気ににはなれない。どんなひどいことをされても、こいしはたった一人の妹、かわいいかわいい妹なのだ。
 しかし、夜這いとは――
 一瞬、どきりとした。
 その単語に秘められたこいしの思いを、私は推し量ることができない。第三の瞳を閉じたこいしの心を、私は読むことができないのだ。そうでなくても普段から何を考えてるのかさっぱりわからない妹の行動を、いったい誰が予測できるだろう。私は困り果ててしまった。さっきから動悸が静まらない。夜這いに来る、というこいしからのメッセージのせいだ。
 こいしは本当に私の心をかき乱すのがうまい。
 いまの部屋の惨状は、私の心象の光景そのものだ。ぐちゃぐちゃに乱れて、目を覆わんばかりの有様。
 こいしだって私の心が読めないくせに、どういうことをすれば私が心を乱すのか、全部わかっている。それがとても悔しい。
 きっと、たった一行のメッセージで軽くパニックを起こしている私を想像して、どこかで笑っているに違いない。ちょろいね、お姉ちゃん、とくすくす笑うこいしの笑顔が目に浮かぶようだ。
 そうとも、私はちょろい女だ。もっともこいし、私がちょろいのはあなたが相手のときだけですけどね。地底の妖怪どもから畏怖を一身に受ける私を、あなたは、ただの言葉ひとつで、一切の虚飾を剥いで丸裸にする。あなたほど私をもてあそんでいる女はいない。まったくあなたは本当に罪な女ですね、こいし。

 夜這いに来る、こいしの残したメッセージから読み取れたのはそれだけで、いったいいつ彼女が夜這いに来るのか、正確な時刻は書いていなかった。まあ、いつ来てもおかしくはないだろう。こいしは唐突に私の前に現れて唐突に私の元から去っていく。そもそもこの夜這いとやらも唐突だ、ならば始まりもまた唐突だろう。
 正直に告白しよう──こいしのやることに振り回されるのは楽しい。いったい私をどう困らせてくれるのか、次はどんな奇矯なことをしでかしてくれるのか、あの可愛らしい小さな唇から零れ落ちる鈴のように清らかな声音が、どれほど私の心をめちゃめちゃにかき乱してくれるのか、今から楽しみで仕方がない。

 そしてノックの音が聞こえる。背筋が自然と伸びる。何百年と生きているが夜這いをかけられるのはこれが初めてだ。緊張で何も考えられなくなっていても、仕方がないだろう。私は不安と恐怖とすこしばかりの期待を胸に秘めて振り返る。きっと目の前には、少しいたずらっぽく微笑む、私だけの愛しい妹の姿があるだろう。

 癪だったので、振り向きざま、まずは唇を奪ってやると決めた。不意打ちは間違いなく成功するだろう。だってこいしは、私の心を読めない。だから私がこんなにも愛しているのを、あの子は夢にも思っていないだろうから。

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2012-11-24 : 東方Project : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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